前胸部の中心とおなかとの境界あたりがロート状に凹んでいる(陥凹している)状態を漏斗胸と呼びます.漏斗胸は,おお よそ1000人に1人程度の割合で起こり,男子に多いと言われています.背骨(脊椎)から左右に12本の肋骨が出ていますが,この肋骨は前の方で軟骨(肋 軟骨)となり前胸部の中心にある胸骨につながっています.漏斗胸はこの胸骨が陥凹しているのですが,実は肋軟骨の変形が原因と考えられています.

漏斗胸による症状は,美容上の問題を除くと普通はほとんどありません.むしろ精神的な問題の方が重要になることが多いようです.外見上の問題で引け目を感 じたり,いじめの原因になる可能性があります.また,風邪をひきやすいなどの呼吸器症状もよく聞かれますが,胸の凹みがひどい場合には心臓が圧迫され,軸偏位などの心電図異常や動悸が発生したり,ひどい場合は心臓の弁膜症を来すことがあります.

また,扁桃腺の腫れと漏斗胸が合併することがあり,扁桃腺による呼吸器症状が漏斗胸の凹みを増悪させる可能性があります.扁桃腺を治療したら凹みが改善し たという報告もあります.漏斗胸の診断は外見から判断できます.胸部レントゲン写真や胸部CT検査を行うことにより,陥凹の程度を数値で表現し客観的に評価する事が可能です.

軽度の漏斗胸では,前述した扁桃腺の処置や水泳などの運動で胸筋を鍛えてあげると改善する可能性があります.手術は陥凹の程度の強い場合やこどもさんが将 来にわたってコンプレックスを持つなどのハンディキャップが考えられる場合に行います.手術時期は3歳以降に行っている施設が多いようです.変形した部分 の胸骨をひっくりかえす方法(胸骨翻転法),肋軟骨を切除して胸骨を挙上する方法(胸骨挙上法)と人工の器具を用いる3つの方法に大別されます.各施設に よりさまざまの工夫が行われておりますので,どの方法を選択するかは主治医とご相談ください.

最近では,アメリカで開発されたNUSS法(NUSSはこの方法を開発した医師名です)という新しい方法も行われています.ナス法は陥凹している胸骨の裏側に金属 製のバーを入れ,裏側から前方へと胸骨を押しだして矯正し,3年程度胸骨をいい位置で固定し,バーを抜きとる方法です.この方法はまだ歴史が浅く,長期的な成績は現在検討中です.